序章 青天霹靂/マ王降臨

 世界を構築する全てがデータ。いわゆる仮想現実。

 そう、ここは現実世界ではない。ここは大手電子機器メーカーGUILDが世に放った────アフター*ダークと呼ばれるバーチャルリアリティゲームが支配する電脳世界だった。

 全てが作り物であるこのゲームには、しかしながらたった一つだけ生身の部分がある。

 それが精神。

 個人の意識を任意のアバタ―へ投影することで成り立つこのバーチャルリアリティゲームは人間にとって一番脆く、また一番弱い部分を糧としている。

 アフター*ダークのプレイヤーには、通常、微弱ながらも痛みの概念が存在しており、各プレイヤーにおけるダメージの許容を上回った時点で強制終了される仕組みを採用している。

 が、社員(エージェント)である佐山ことサージタリウスには、電脳世界を監視しなければならない役割を担っている観点から、痛みの概念が意図的に排除されていた。

 要するに、特別なのだ。

 であるから、先にとった咄嗟ながらも背を向けて身を守る、という行動はゲーム的な意味では無駄な行動であったのだが、個人の意識を投影するシステムを鑑みれば、それは人間として当たり前の行動だったのかもしれない。

 そしてサージタリウスはこの世界で実質的に無敵であるにも関わらず、今し方空から降り立った青年の姿に、その人間としての精神を再び揺さぶられていた。

 青年の黒髪が風に揺れる。

 ――何処から、現れた……!?