序章 青天霹靂/マ王降臨
針のない筒状の側面にはデジタル表示の画面が取り付けられており、画面横にある感知センサーの稼働を判別するランプが明滅を繰り返していた。
――なんだこの反応は……。バグ?
寄せていた眉が更にハの字にせり上がる。通常ならば数秒で器具が結果を叩き出すはずなのだが。
――……駄目だ。反応がない。……ジュリアの方は終わった頃だろうか。
とりあえず、このまま続けたとしても自分だけでは判断がつかない。現状をジュリアに伝えようと耳に装着したワイヤレスイヤフォンに手を当て、通話を試みる。
*
風が空を切る。
闇が通り過ぎていく。
夜空に浮かぶ満月に映る影――空を駆る真っ赤な真っ赤なバイクとその操縦者は、徐々に加速していく落下運動にその身を委ねていた。
――のだが、そこが空中であるにも関わらずハンドルを握っていた操縦者が、突然バイクから離脱した。
車体を蹴り出し、バック宙の要領で空を舞うライダー。
一方、制御を失ったバイクは物理法則に従い――
*
「ジュリア。終わったか?」
返答はなかった。
電話の向こうでは、未だ独り言とキーボードのタイピング音が木霊している。
サージタリウスはワイヤレスイヤフォンから手を離しながら片膝をついた状態から立ち上がる。
いや、立ち上がろうとした時だった。
唐突に、轟! とサージタリウスの真横を真っ赤な真っ赤なバイクが風を切り裂いて駆け抜けた。そして追従の炸裂音。通り過ぎた真紅の鉄塊がビルに激突したのだ。