第一章 日常茶飯/街の風景A
もし計測していたら、恐らく震度一か二程度の小さな揺れ。道を歩く人々を見てみれば、確かめるように辺りを見回す者もいたし、気にも留めずに歩を進める者もいた。
電脳世界で地震なんて、大陸プレートの概念もへったくれもないであろうに。仮想現実はそんな災害の脅威まで忠実に再現しているとでもいうのか。
そうだとしてもゲームの中でくらい自然災害の恐怖から解放してほしいものだが、しかし既に身をもって体験している天候や季節のシステムを鑑みれば、
――つまるところ、何でもありっつう事ね。
そうやって簡単に自己完結させるマ王。
ただこの地震が、実は知人――金髪緑ジャケットの男が巻き起こしたものだとは、マ王自身、知る由もない。
さて置き、マ王が不幸通りにいるのには、理由があった。
それは今から一〇分ほど前。友人の一人から呼び出しの電話があったのだ。
マ王は電話で済ませろと申し出たのだが、友人側がそれだと用事が終わらないと言うことで、わざわざ不幸通りまで出向き、今に至る。
のだが、友人が何時まで経っても姿を現さない。呼び出しておいて待たせるなんてどんな神経をしているのやら。
しかし、さきほどから声だけは聞こえている。
マ王の正面にある、NICE☆GUYというピンクネオンの少々危なそうな店から、友人が吐き出しているであろう大声だけは聞こえるのだ。