第一章 日常茶飯/街の風景A
「――――ワタシが少し目を離すとすぐこれか!! あんたら一体何処に目ぇ付けてるんだその腕の筋肉は飾りか! 飾り物なのか!? キャアじゃないよまったくこのボンクラ共まだ金玉付いてんだろぉおおが!!」
「ごめんなさいママぁあ!」「許してお願いよ!」「日本刀ぉおおおおおお!? ちょ、誰か、誰か止めなさいよ!!」「お、落ち着いてママ落ち着いて!!」
分厚い鋼鉄製の扉で店内と外界は寸断されているというのに、一言一句違えず耳に飛び込んでくる友人の声。後から聞こえてくる野太い声とは違い、女性特有の高さが感じられる。
――……相変わらず、だな。
マ王は頬をポリポリ掻きながら扉を見つめる。
店内が一体どんな状況なのか、外側からは一切分からないが、呼び出しておいて待たせるほどの事が起こっているのは確かだ。
ただ、事の内容を進んで知りたいとは微塵も思わない。どうせ面倒事だと相場は決まっている。
できる事ならばそれらの類は避けて通りたいのだが、ここで逃げようものなら、それこそ後で面倒な事になりかねない。
半ば諦めた様子で立ち尽くすマ王。
選択肢は存在しない。出て来てくれるまで待たなければならない。ないないないの無い尽くし。どうにもこうにも身動きがとれない状態である。
とりあえず時間潰しの意を込め、マ王はスマートフォンをポケットから取り出した。
タッチ式の如何にも高価そうな携帯。馴れた手つきで画面を弾き、おもむろに自身のプロフィールを呼び出してみる。
画面に映っているのは、メールアドレスと電話番号と名前。