第一章 日常茶飯/街の風景A
経過時間は五分程度といったところか。ただ、少女の待ち人が来る気配はない。周囲の人々は次々と合流し、自由の街へ繰り出して行くというのに。
あと五分程度待って、それでも来なかったら探しに行こうかと思案しながら、今度はスクランブル交差点を見つめる少女であったが、正面にいた人物と目が合った。
頭にちょこんと乗った王冠。
青い園児服。
何かを咀嚼しているのか口元をもごもごさせ、パンパンになったレジ袋を両手に下げた銀髪の幼児がそこにいた。
幼児は眠そうに半開きにした両目を僅かに上げ、咀嚼を終わらせてから至極落ち着いた様子で言う。
「おお、名綱(なづな)。おまえ名綱だろう? 久しぶりではないか」
可愛らしい声ながらも、幼児らしからぬ落ち着いた口調。
知り合いだった。
*
新東京市西区・新東京駅裏通り
赤青紫桃色黄色。
色とりどりのネオンが夜を照らす。
車二台がギリギリですれ違う事ができる道路脇には、光源を引っ付けた看板やら立て掛けが並んでいた。
ここは新東京駅裏通り。
主に居酒屋や風俗店で埋め尽くされる通り――俗称・不幸通りである。
極めてアダルティーな道であるため、表通りと比べると人通りは極端に少ない。なにせ、同性愛やら何やらを食い物にする店まであるくらいだから、道行く人間も限られてしまうのは必至だ。
そんな不幸通りに、黒の青年マ王はいた。
ポケットに手を突っ込みながら道脇でぼけっと立ち尽くすマ王は、微弱な揺れを感じてポツリと胸の内で言葉洩らす。
──…………地震?