第一章 日常茶飯/独白A

 何が原因で自分は電脳世界に幽閉されることになったのか。今も昔も分からずじまいだが、現実世界からの救援が無いのは何故だ?

 普通に考えて、もともと現実世界にいた人間がいなくなったともなれば、家族が警察に捜査願いを出していたり、いなくなった人間が最後にどこで何をしていたかぐらいは調べるはずだ。

 もしかすればこれは何かの策略で、もしかすれば誰かの思惑なのでは?

 いや、これはもっと別の、そう。実は長い長い夢か何かで、そのうち目が覚めれば終わってしまう幻想で。

 と、いくら考えたところで憶測は憶測に過ぎず、思考回路はやはり生身の人間であるから現実逃避をしてしまうのが関の山。

 しかしながら、青年は何も四年もの間、黙って閉じ込められていた訳ではなかった。

 青年は、恐らくこの事態に陥ってしまった原因に繋がる、あるキーワードに辿り着いていた。

 ――俺は電脳世界に幽閉されただけだ。通常のプレイヤーができるはずのログイン・ログアウトが出来なくなっただけで、別に重い病気になったわけじゃないし、ましてや記憶喪失になったわけでもない。

 では、


 ――自分の固有名称だけが分からないのは何でだ?


 そう。青年は元々、普通のプレイヤーだった。四年前まで『マ王』などと言うふざけた名称を冠してはいなかったのだ。

 自分の名前以外の記憶は全部ハッキリ覚えている。

 育った街も。

 通った学校も。

 好きだった女性の名前も姉の顔も父も母も。全部、全て。