第三章
行け、まで聞くことはできなかった。
エイドの命令を阻んだのは、二人のすぐ隣で玄関扉がはじけ飛んだ衝撃だった。
扉を破壊した音と、扉が壁に激突した音はほぼ同時。木製とはいえ一戸建て家屋の扉を蹴破った足は、そのまま室内への一歩を踏み出した。
黒いローブ。黒い髪。金の瞳。長い柄と三日月型の刃。
「じゅう、さん、ばん……?」
自らが司るカードと同じ名を持つ男だった。
死神のような、男だった。
「心配するな。勝手に魔術師を殺したりはしない」
坦々と、〈十三番〉は告げる。
その言葉に真っ先に反応したのは、当の魔術師であるエイドだった。
「っ──我が正義! この男を正義に基づき、罰しろ!」
エイドの意志とレビの象徴が、組み合わさって魔術を発動する。
炎や風などの明確なかたちを伴うことなく、ただ「エイドにとっての正義」を貫くための魔術。レビの意志を奪い、体を乗っ取って正義を遂行させる魔術を。
迷いもためらいも持たず、レビは剣を片手に〈十三番〉へと突進する。風を裂いて繰り出した刺突は紙一重で避けられ、薙ぐように振った追撃すら潜りぬけられる。
当たらない。上下左右、背後にまわりこんでも当たらない。刺突、斬撃、牽制の蹴りも、回避直後を狙った拳すらも。
「変容のきっかけを与えにきた」
連撃を避け続けながら、〈十三番〉の言葉は淀みなかった。
エイドが〈十三番〉の乱入に動揺しているためか、口だけがレビの意志に従って切れ切れの言葉を紡ぎ出す。
「なに……言って……」
「意識を強く持て。自分に関わる選択を誰かに任せるつもりか」