第三章
エイドの意志を顕現するためのモノとして。
エイドの正義を実行するためのモノとして。
「そんなに象徴として使いたいなら──〈アルカナ〉の【正義】の代わりにしたいんなら、あたしの自我なんてさっさと殺しなさいよ!」
レビが大声を出したのは、久しぶりのことだった。
身心共に疲弊する毎日をすごし、抵抗する気力もなくなったと、レビ自身が思っていた。叫び慣れていない喉が、ひりつくように痛む。
それでも、構わなかった。
今なら、抗う気力がある。自分はひとりの人間だと、主張することができる。それだけで十分だった。
「あたしはあんたの正義じゃない!」
エイドの片眉が跳ねあがった。その意志と繋がっている体内の象徴から、どす黒い感情がレビに流れ込む。
象徴として使われてしまえば、たとえ自らの思考や感情を阻害することになったとしても、レビは無自覚にエイドの意志を増幅してしまう。それは、ものが上から下へ落ちることと同じくらいに当たり前のことで、抗えないことだった。
怒り、憎しみ、支配欲、歪んだ正義観。エイドの淀んだ感情は、レビの体内にある象徴によって増幅されて彼女の自我を奪おうとする。
意識は黒く染まりはじめ、何かを考えることすら億劫になる。恐怖心はない。ただ、気休め程度の達成感と、それを支える大きな諦めだけがあった。
自分の父親を殺すよりは、よほどマシな終わり方だと、諦めをつけた。
「……我が正義」
虚ろな目で声のする方を見ると、エイドがレビの右手に剣を握らせるところだった。
「最後の調整だ。白蛇の瓶を持って地下室に──」