第六章
結論から言うと、杏子はベアトリーチェを殺した。
なんていうと誤解を招くので詳細を語ると、ベアトリーチェを不死から解放した。
影の魔女が扱うことができる魔女殺しの力とはそれすなわち、魔女の力を殺す事。つまり、能力の抹消のことを指す。
これにより魔女は魔女ではなくなり、『普通の人間』として生きることができる。
かつては不死を願って不死になっていた者に死を与える。
本人たちの受け止め方次第ではあるが、事実的極刑であると杏子は個人的に解釈する。
つまるところ、ベアトリーチェは人間になったのだった。
大切な人と一緒に時間の経過を感じること。死というリミットを見つめること。無限を失った魔女は、これからの人生をかけてそれらと向き合わなくてはならない。それこそ、これまで若さの糧にしてきた人々の分も。
そうして悩み、もがくことがベアトリーチェもとい元ベアトリーチェの背負った罰だ。
別の二人の話。
ベアトリーチェが魔女を辞める直前、杏子はリンゴをもらった。
願いの叶うリンゴ。
使うのは杏子ではなく、老婆の少女・浜先かえでである。
リンゴは、手に入れた二月十六日当日に食べた。無論、きちんとルールに従って。願いの内容は『私と弟を元に戻してください』。
そこから約二十四時間の準備時間があり、その翌十七日から十三日かけて徐々に若さが戻ることになる。騒動の当日から全く会っていないから経過は分からないが、再来もないところから鑑みるに、おそらく、たぶん、大丈夫なのだろうと杏子は思う。