第五章
啜った生気を筋力に変えているらしい。脚はどうなっているか分からないが、袖口から覗く腕の筋肉が、華奢な体からは考えられないほど肥大化しているのが目視できた。
回避か応戦か。
ベアトリーチェが跳んでいるおかげで思考の猶予が刹那だけ。
──上から攻撃。──軌道は真下。──応戦。
否。
────回避!
杏子の踏込みの一歩が炸裂。地面が爆ぜて抉れたところに一瞬遅れて資材が殺到。続く第二波・三波も杏子の速度が上回る。全弾回避。
影の魔女が持つ力は、魔女を殺すための力。
もともと戦闘タイプではないベアトリーチェに引けを取ることなどない。それが仮に断片だけであったとしても。
宙に投げ出された資材は全て躱した。ベアトリーチェは空中でなす術がない。これにて封殺。
杏子はベアトリーチェの着地点まで走り込み、落下のタイミングに合わせ、頭を鷲掴んで彼女を地面へ叩き付けた。
「この程度じゃ死なないでしょ? というか死ねないでしょ?」
頭部への致命的なダメージを負っているにも係らず、ベアトリーチェはなんとか逃れようともがく。
「アンタさ、諦めも肝心なんだ時にはね。いま罪を認めて謝るんならまだ間に合うよ。そうじゃなきゃ殺す。アンタじゃなくて、アンタの恋人──あの駅員さんを、ね」
『その者が最も愛する者を殺す』ことで死滅してしまう魔女。それは昔の話であって今は違う。ただし、神藤杏子には通用しない。