第五章

 ただそれは、元・影の魔女が立てた誓いであって、力の断片だけを持つ杏子にどこまで適用されるかは分からない。

 そこから予測できるベアトリーチェの行動は、単純だった。

「あんた、不死性はどうなってんすか?」

 幸か不幸か馬鹿か利口か、契約を結ぶ際、影の魔女が違反者を罰する役を引き受けたおかげで、違反時における契約からの直接的干渉の取り決めはされなかった。

「さあ? 試してみれば?」

「…………調子に乗るなよ、パチモンが」

 つまりは、影の魔女を打倒してしまえば無罪放免なのだった。しかも現在の影の魔女は、力の断片を抱えている程度。

 実際のところ、どこまでの力を引き継いでいるのか自分でも分からない杏子だったが、ここで引き下がる理由はどこにもなかった。

「かかってこいよクソアマ。三流魔女と影の魔女の贋者(格)の違いってやつを教えてやらあ」

 直後。

 ベアトリーチェが片手で車を持ち上げ、投擲。

 近距離から先制を取られ一瞬だけ杏子は逡巡したが、寸でのところで跳んで回避。したまでは良かったのだが、車が辿る軌道上に誠とかえでがいることに気付き、身体を旋回──勢いそのまま踵落としの要領で繰り出した右脚が車体の横っ腹を捉え、吹き飛ばした。

 車は地面をバウンドし、資材の山に激突。けたたましい警報音が鳴り響く。

 その衝撃で資材の一部、主に鉄骨やパイプが宙に投げ出された。しかし杏子の視界に入ってきたのはそれだけではなかった。

 凄まじい瞬発力で跳躍したベアトリーチェが空中で資材を掴み、すでにそれを振りかぶっている。