第五章
騙されていた、と思うよりも先にかえでの頭に浮かんできたのは、これまでの自分だった。
十余年の人生を振り返ってみると、なんでもそうだがかえでは受動的だった。受動的なのは悪いことではないのだが、ただ、そこから感じたものを自己で咀嚼し、発信していくことなどまずなかったのだ。
自分はおとなしい人間である。こんな時はこういう反応をする。劇的ではない。だから受け身に回る。受け身に回ることで余計な発言をしなくて済む。
平々凡々であるという自覚があった。だがそれは、『自分は特別だ』と思い込む人間とさして変わらない。
人間性を見極めるのは自分ではなく周り。
自分が見極めるべきなのは、何をしたいと思い、そして結果として何をしたのか。
しかし理解できないことが一つだけある。
不死であるベアトリーチェは、なぜ若さを求めるのだろうか。
空き地の真ん中で佇む杏子は両手を広げて、
「と、まあこんな感じで裏は取れてるんだけど、どうする? いま謝るんだったら免責とまではいかないけど、それなりの配慮はしてやってもいい」
「…………」
沈黙は肯定。
という解釈が成り立つのは人間だけ。
「……変なことは考えない方がいい。影の魔女(私)はアンタを殺せる」
影の魔女。魔女狩りの魔女も類からもれず、誓いにより不死となる契約をしている。契約したのは杏子ではなく、杏子のへ力を植え付けた者だが。
元の魔女が書き記したのは、『契約違反を犯した魔女を殺害できる。これまでの殺害方法も無論有効である』という誓い。