第五章

 杏子が空き地に到着したのはそれからすぐあと。午後五時二十八分を回ったころのことだった。

 朝からどこかへ行っていたようだが具体的に何をしていたのか、かえでは知らない。行動の理由を知っていそうな誠に視線だけ送ってみても気付く様子はなく、彼は空き地の中心で佇む杏子をただ見守るように見つめているだけだった。

 黒のモッズコート。

 先ほど聞いた話も相まって、それを羽織った杏子の姿がどこか不気味に見える。

 影の魔女。魔女狩りの魔女。力の断片を植え付けられてしまった人間。

 本人から直接聞いた話ではないにしても、杏子の事情に詳しい誠からその話を聞かされてしまっている。同情というと筋違いだが、通常ではありえない状況に陥っている自分と重ね、普通ではない杏子を無意識にも憐れんでしまっている事にかえでは気付く。

 杏子も、こんな気持ちだったのだろうか。

 杏子も普通ではない自分と老婆になってしまった少女に影を重ねているのだろうか。だから助けてくれるのだろうか。

 かえでの中に湧き上がってくる疑問に、杏子は答えない。

 空き地の隅と中心との距離はざっと十メートルほどある。ましてや、思うだけで言葉にしないかえでに答えが返ってこないのは、道理だった。


 そして、午後五時三十分。


「時間だ」

 腕時計を確認した誠が定刻を告げた直後のことだった。

 道路を走る車が一台、空き地に侵入。白を基調とした車体には淡いオレンジで店舗名が、赤でライン等のデコレーションがなされている。車種は軽トラ・スズキキャリー2WD。