第四章
「魔女術、現代で言うところの魔法を扱う者を魔女という。君も知っているとは思うが、過去欧州の方では魔女狩りが行われていた。厳密にいえばそれは、宗教間の争いの末にもちいられるただの見せしめだったんだ」
表面だけ。なんの証拠もなく女性を裁く悪しき風習。
「そんな中でも本当に不思議な力を持った者というのは確かに存在して、その者たちはみな、殺されても死ななかったらしい」
総勢七十二名。
「それが、本物の魔女たる者の数だ」
その者たちは禁忌の存在として一つの名簿に名を押えられ、焼却され、縛られた。
「唯一の殺害方法だった『その者が最も愛する者を殺す』という手段も縛りにより無効化され、事実上、不死の存在となった」
しかし、と誠は続ける。
「それは外側からの干渉において。内側、つまり魔女からの干渉についてはその限りではない。ただ、それをできるのはたった一人だけ」
七十二名いる魔女のうち一名のみ。
「影の魔女。そいつが魔女殺しを唯一行使できる魔女狩りの魔女だ。そいつは少し前にやんごとなき理由というやつで人間に戻ってしまったんだがな」
「やんごとなき、理由……?」
「そう。影の魔女。魔女狩りの魔女はもういないが、それを引き継ぐ……いや、移された人間ならいる。やんごとなき理由でな」
魔女。魔女の話。やんごとなき理由。
目を見開いてかえでは誠の顔を見る。
「それって……」
「ああ、君も知っている人間──神藤杏子。あいつは、やんごとなき理由というやつで影の魔女になってしまったんだ」