第四章

「私の、せいですよね……全部」

 でもせめて。弟だけは。

「気にしないで。かえでちゃんのせいじゃない。全部──アイツのせいだ」

 空気が、変わる。

 それまで静かだった龍心堂内の空気が僅かにざわつき始める。テーブルに載った湯呑みが小刻みに揺れ、メモ帳の上の鉛筆がカタカタと音を立てて転がった。

「誠」

 杏子の呼びかけに誠は短く応じる。

「わかった」

「場所は町はずれの空き地でお願い。時間は夕方五時半」

「……ドンパチする気か?」

「それは最終手段。とりあえずは話し合ってみるさね、一応同族だし。でも言葉で分かり合えないなら戦争でしょうよ。私たちの場合」

「……まあ、心配なんて微塵もしていないが一つだけ助言をしておく。死ぬな」

「はいな」

 龍心堂入り口のコートかけから取った黒いモッズコートを羽織った杏子は、手をひらひらさせながらその場を後にした。


 時戻り、現在。


「龍崎さん、もう少し聞いてもいいですか?」

「……神藤と、魔女のことか?」

 かえでは頷いて答える。

 言い当てられることにはもう驚かない。龍崎誠は頭がよく、そして先回りして相手のこと気遣いながら話を展開することができる人だ。というのが、この短い付き合いの間でかえでが捉えた誠の人となりだ。

「魔女の起源については諸説あるが、何が正当なのかまでは俺も知らない」

 だから、わかる事だけ言わせてもらう。と誠は前置きを述べる。