第四章
リンゴは魔女が常用する魔具。
童話・白雪姫でも用いられた果実である。
「アイツが持つリンゴには本当に願いを叶える力があるんだけど、誰かに対して叶わない恋や想いを抱いている人間の願いは総じて単純」
「………………その人とずっと一緒に、いたい」
「そういうこと」
魔女・ベアトリーチェは、人の想いにつけ込む。
大事な人とずっと一緒にいたいという想いにつけ込み、かえでの生気を弟に移し替えた。移し替えることで一体となり、『一緒にいることができる』という意味合いに挿げ替えた。
「そのあとはもう想像通り。赤ん坊の弟くんから大量の生気を吸い取り、自分の若さに変える」
リンゴを口にしてから若さの移行が始まるまで約二十四時間の潜伏期間がある。
かえでが件(くだん)のアップルパイを口にしたのが二月一日。異変が始まったのが二日であるからこれで説明がつく。
そこから十三日。
タイムリミット。
十三日後──つまりそれは、
「二月十四日(今日)なんだよ」
かえでの目じりから静かに涙がこぼれる。
悔しさや怒りや悲しさや惨めさや。さまざまな感情が入り混じった涙が、溢れて流れて手の甲に落ちて弾けた。
あの時自分が想いを閉じ込めていれば。あの時自分が本心を秘めたまま、想うだけで幸せだと留めていれば。些細なことで揺れないくらい強ければ。
こんなことにはならなかったんだろうとかえでは泣いた。
何も動かず何も変わらず、いままで通りの生活を続けることができたんだろうと泣いた。