第四章
「そう。かえでちゃんは何かしらの形で、誰かからリンゴを受け取って、口にしているはずだよ。『願いを込めながら口にするとそれが叶うリンゴ』だとか言われて、ね」
杏子の、言う通りだった。
かえでは確かに二月二日以前、詳しく言うと一月三十一日に移動販売車で売られているアップルパイを買い、そしてそれを翌二月一日に口にしている。
その移動販売車には、誰も客が並んでいなかった。
味が不評なのか、それとも単純に人の入りが悪いだけなのか、その時は判断できなかったが、今になって冷静に考えてみれば、移動販売車がこの小さな町にくること自体珍しいことであるにも係らず、誰も買い求めないのは不自然だ。そもそも移動販売車は人通りが比較的多い駅前通りに停車していた。
「人避けはアイツの十八番だからね」
アイツ、という言い回しに違和感を覚え、かえでは思わず尋ねた。
「え? ああ、向こうはどう思ってるか知らないけど、ちょっとした知り合いでね。しかも残念なことに、そこそこいる知り合いの中でもタチの悪い奴だ。アイツは、ベアトリーチェは他人の若さを弄ぶ魔女だ」
魔女。
ベアトリーチェ。
男女の仲と生気を操ることができる魔女で、人の目を避ける術を得意とする奴だと杏子は説明する。
「アイツは他人の若さを啜って生きてる。しかも若さの集め方は、かえでちゃん、いまアナタたちの身に起きていることと同じ方法でなされる」
「……え」
「若さの移行が完遂するまで十三日の期間がある。あの魔女はまず、誰かに対して叶わない恋や想いを抱いている人間を探して近づいてリンゴを渡すの」