第四章

 その時かえでは違和を感じていた。青年が初対面の老人に対して話しをする時、『君』という二人称を使うのは何かおかしい気がする、と。

「きっと龍崎さんはその時、もう気付いてくれていたんですよね。私の中身は、子供だって」

 そう言って、かえではうっすら微笑んだ。

 その笑顔につられて誠も微笑する。そして憎まれ口を一つ。

「俺はババアは嫌いだからな」

「ふふ。龍崎さんって見かけによらずロリコンなんですね」

「冗談だ」

「あ……そうだ……気になっていたんですが」

「質問は随時受け付ける」

「神藤さんとは、その、どういったご関係で」

 誠が眉を寄せて首を傾げるが、すぐに質問の意図に気付き、

「ん。ああ、君の思ってるような関係じゃあない。あいつと俺は高校時代の同級生なんだ。同じ茶道部出身でな」

「茶道部、ですか……神藤さんが」

「わかる。その気持ちは想像に難くない。実際あいつは作法面においてはからっきしだったうえに、道具を武器に変えてしまう原始人だったからな。退部を勧めたがあの性格だ。頑なに拒んでずっと湯を沸かしてたよ」

「映像が見えますね」

「そんな奴だ、あの馬鹿は。今はやんごとなき理由でウチのマンションの一室を貸してやっている。条件付きで」

「……条件付き」

「ああ。魔女を狩るという条件付きで、な」

 そういえば神藤杏子もそんなことを言っていたとかえでは思い出す。

 今いる空地へ、午後五時半までに来てくれと指示したのは他でもない、杏子だった。


 以下、回想。


「リンゴ……」

 言葉をオウム返しするかえでを見据えて、杏子は小さく頷く。