第四章
時間経過。
二月十四日。
午後五時二十三分。
龍心堂店主・龍崎誠と、年老いた少女・浜先かえでは、町はずれにある空き地にいた。
もとはマンションが建ち並ぶ場所だったのだが数年前に耐震強度偽装が発覚し、建築会社が失踪。そのまま放置の状態となっていたところ、暴走族やそれに準ずる輩たちがたむろすようになり、治安の悪化を招くとして役所がマンションを撤去するに至った。
だだっ広い空き地の端々には鉄骨や土管といった資材が点在している。砂利と土が入り混じった地面から伸びた雑草は枯れ、傾いた太陽の色が赤に変わりかけていた。
「ありがとうございます。龍崎さん」
誠の肩を借りながら、かえでは資材の端に腰を下ろす。
「あの、すみません。ハンカチよごしてしまって」
誠が気遣って資材の上に敷いたらしい。それにしては柄がひよこで、どうも本人の持ち物ではなさそうな気がする。
「あの馬鹿の物だ。思う存分よごしてくれて構わない」
やっぱり……とかえでは苦笑する。
「龍崎さん」
「なんだ」
「龍崎さんは、なんで私を助けてくれるんですか……?」
「いきなりだな」
「すみません。……でも、なんでですか? 昨日だってそうです。これは何かの病気だと思って病院に行っても、保険証の生年月日と外見が明らかに違うから治療は受けられない。警察にも保護されない。親にも、誰にも頼ることができない…………町を彷徨っていました。そんな私に龍崎さんは声をかけてくれました。『もし君が困っているならウチに来るといい』って」