第二章

「気にしなくていい。それはそうだ。学生証の写真と老婆の容姿を照合して本人かどうか見極めるなんて、怪しまれても仕方がない」

 それはそうと、と誠は続ける。

「具体的にはいつごろから変化を始めた?」

「…………たしか、今月二日の夜くらいからだったと思います。お風呂上りでした。髪を乾かしながら洗面台の鏡をぼーっと見ていたら、目じりに皺が入っていて。その時は乾燥したのかなと思った程度で。身体もだるかったのでその日は早めに寝たんですが、次の日朝起きると、皺は増えていました」

「体が軋むとか、動作に異常が出始めたのは?」

「その次の日あたりからだったと思います……。関節が軋んで、立っててもすぐ疲れて。四日目の朝は身体を起こすのも億劫で。何の気なしに脚をマッサージしたんです」

「続けて」

「……筋肉が、なくなってたんです。皮と骨だけのみずぼらしい脚になってたんです。手も、身体も。鏡を見たら……鏡を、見たら……私、おばあちゃんになってました」

「家を出たのはその時か」

「はい……。朝四時過ぎくらいでした。家族はみんな寝ていたので、そのままこっそり」

 沈黙が流れる。

 年老いていく、というのは人間ひいては動物に必ず訪れることだ。

 それを否定、嫌悪するのは遥か昔からのこと。どの時代でもどの世界でも、人は、若返りの薬や不老不死に振り回される。

 若くありたい。それは誰もが望む願いなのかもしれない。

 かえでと同性である杏子は、もし同じことが自分の身に起きたら、と想像する。