第二章

「じゃあ、そうさな……手始めに土下座でもいっとくか?」

「かはははは! この礼節の鬼、マナーキーパー、CS軍曹・神藤杏子による超攻撃的土下座! あのオバマも震撼した七色の土下座をその目に焼き付けろ!」

「……おお……」

「これぞ礼節の極み、極み、極み!」

 と、ここで杏子はふと思った。果たして、土下座とは礼儀作法ではあるがしかし謝罪やお願いごとをする場面でもない今、むやみやたらに頭を下げる姿を晒すのは……。

 顔をゆっくり上げると誠の無表情な顔が。

「お前の頭は軽い(いろんな意味で)」

「…………ベリィイ・シット!!」

 あまりの悔しさに糾弾するとかえでの頬が少し緩んだ。ぷ、と小さく噴き出し、恥ずかしそうに座り直して佇まいを整えた。

 閑話休題。

「で、だ。そろそろ本題に入ろうか」

 誠がカウンターに腰を下ろし、改めて話を始める。

「単刀直入に聞こう、浜先かえで。君の容姿はいつから変わり始めた?」

 その問いに、かえでは僅かに瞠目した。

 かえでは自分の身に起きている事の詳細をまだ語ってはいない。

 先ほど提示した学生証。学生証に添付した証明写真。そこに写っているのは本来の浜先かえでだ。彼女は老婆ではない。どこにでもいるただの高校生である。

 その普遍的で一通りな高校生が老婆の姿に変化してしまった。それも急激に、ではない。日を追うごとに老化が凄まじい速度で進行してしまっているのだった。

 『いつ変わってしまったのか』ではなく、『いつから変わり始めたのか』。

「これで信用してくれるか?」

 疑っていた事も誠には筒抜けで、かえでは非礼を詫びた。