第二章

 馬鹿は余計だと思いつつも引きつった笑顔で杏子は手を振って答える。いま話しの腰を折ったら、怒涛のように言葉で捲し立てられるのが目に見える。

「水沢先生は元気か?」

「あ、ええ。はい」

「あの人は見た目はアレだが、困ったことがあったら相談したらいい」

 ただし、

「勉強や進路のことについてだけだがな。今回の件に関して俺たち以外に君の事情、もしくは現状を知っている者は?」

「……いえ、いません」

 聞くに彼女は役所勤めの両親を持ついわゆる中流階級の家庭で、現在家出中。捜索願が出されているが、その容姿は彼女の両親が知るものとはずいぶんかけ離れてしまっているため発見はされない。もしも名乗り出ても保護される事もないが。

「それでいい。ここまでで何か聞きたい事はないか?」

「はい……えと、お茶を出してくれたそちらの方は……」

 唐突に話を振られたので杏子は手をひらひらさせて簡素に受け答えする。

「神藤杏子。よろしく」

 注釈。

「この店の雑務係だ。なんなりと言いつけてくれ」

 よろしくお願いします、と深々と頭を下げるかえで。

 今どきの女子高生にしては礼儀正しいなと感心する杏子だったが、誠から向けられる視線に気付き、表情をあからさまに曇らせた。

「……なに?」

「いや、別に」

「なんだっての」

「……お前にもこれだけの器量があればなと思ってな」

「は? ありますぅ。私にだってこれくらいの器量ありますぅ。礼儀作法の一つや二つ朝飯前ですつまりブレック以下ですぅ」

「ほう、初耳だな。なら試しに見せてくれ」

「望むところよ」