本論三・バカと天才は紙一重だ。

 カネミツは唇を舐めて湿らせると、ケープを踏みつけていた足を浮かせて再び飛行。

 火傷によるショック死であろうと、制御を取り戻した〈ワシリーサのしるべ〉の集中「放火」による焼死であろうと、介入者の死を避けるためにはとにかく急ぐしかない。

 早すぎることに越したことはないのだ。最悪、オキツグが間に合わなくても応戦はできるし──なにより、あの男が自分より「遅い」なんて状況は、想像することができなかった。

「学園最速に追いつかなきゃならないのは、むしろこっちだからな」

 言って、カネミツはニヤリと笑む。

 ライフルの銃床を右肩に押しつけ、しかし銃口は下に向けたまま、〈ワシリーサのしるべ〉を一つ引きはがされた介入者の動きを見定める。

 ふらふらと不安定に揺れていた介入者は、次の瞬間、膝を追って体を深く沈めた。

 突進の前兆行動。カネミツは先に回避を始める。

 その流れを読んで介入者が軌道を微調整するところまで、すでに何度も繰り返したやりとりだった。火柱が立ったことによる熱風が、両者の間を凄まじい勢いで暴れまわる。

「──ッ!」

 突進の勢いを乗せて放たれた介入者の拳は、頭蓋骨によるブーストがかかっていなくても驚異的な威力を持っていた。

 カネミツの頬をかすめた拳は、直撃に至らずともその威力を発揮する。空気が避けるような、あるいは鼓膜が空気に圧されたような、耳鳴りに似た音がカネミツの聴覚を支配する。

 その隙を突くように、カネミツの回避先にはすでに介入者の足が置かれていた。

 膝を体の内側に引き寄せるかのような膝蹴り。