本論二・若気の至りにも限度はある。

 ぼそりと呟いたオキツグが、あろうことか今まで指すらかけなかったブレーキを握りしめ、さらには車体とタイヤすら倒して急制動をかけた。

 思いもよらない行動に、カネミツが追いつける道理もない。盛大に噛んだ舌から血の味こそしないものの、突然の凄まじい痛みに思わず言葉が途切れる。

 タイヤのゴムが焦げつく匂いが風で流されたころ、ようやくカネミツが一言。

「いつか頭ブチ抜いてやる……」

「おい、見ろ」

 なんなんだよ! と顔を上げる前に、カネミツはふと思い出した。

 いま、カネミツとオキツグは追われている身である。

 空を自由に駆け巡り、炎を吐き出す防衛機構が彼らを追いかけていたはずなのだが、停止し、恰好の的になっている今も火炙りにはされていない。

 視線を上げてみると、後方、かなりの距離をとった位置に、〈ワシリーサのしるべ〉のミニチュアたちが止まっているのが見えた。その気になればものの数秒で人間二人を灰にできるはずだというのに、距離を詰めようとする気配がない。

 忌々しげに、あるいは警戒するように、歯を噛み鳴らしてガシャガシャと音をたてている。

 次いで、オキツグの指さす方を見ると、遠く、草原の端に土のめくれあがったクレーターができているのが目に入る。すぐ傍らに刺さっているのは、学園支給の飛行用箒だろうか。

「介入者だ」

 断言するオキツグ。

 しかし、否定する要素はどこにも見当たらなかった。

 ババ・ヤガーは言った。この件は「若気の至り」によるものだと。「学生」が〈ワシリーサのしるべ〉に介入し、魔法の支配権を奪おうとしたことに原因がある。