最初はとぼけているのかと六呂師は思ったが、六呂師という苗字は結構珍しいものである。当夜坂も珍しいが、六呂師は生まれてこの方、家族以外で同じ姓の人間を見たことがなかった。それくらい珍しい苗字。

 だから少なくとも印象には残るはずである。

 はずなのに。

 六呂師はスマートフォンを耳に当てながら当夜坂凜子を見る。

 これではまるで別人だ。

 同じ形をした、中身の違う別人だ。

『自分の事を相手が知っているはずだ。だなんて、だいぶ自惚れた考えだよね、六呂師くん。自己中心的と言ってもいい。ともすれば穿ってる。尖ってるね』

「……僕の心の中を読まないでください」

 そして言い過ぎだ。

『まあ、いいから。代わってくれよ。話のさわりは私がやるから。代われないのなら、せめてスピーカーに替えてくれるかな?』

 言われて六呂師は通話音声の出力をスピーカーに切り替えた。そしてスマートフォンの画面を当夜坂凜子に見せるように突き出した。

 ややあって、スピーカーから声。

『初めまして、当夜坂凜子ちゃん。私は水上。水上咲良という』

 よろしく、と続けるも当夜坂凜子から返答や反応はない。

 当たり前ではあるが。

『ふうむ。無言ね。無言で動かず、かい。大人しいっていう話は聞いているけど。私はそれでいいんだけど、それじゃあ君が不利になるんだよねえ。対話は対等になるための手段だからね。まあ、単刀直入にいこうか。……当夜坂凜子ちゃん。私はねえ、女の子が大好きなんだ』

「…………」

 沈黙する影のない少女。