第四章

 自分を担当する科学者をけなしたり、体を晒さなければならない研究所の構造に愚痴を言いながら、かしましく笑い合っていたのを、今でも覚えている。

「ヴィオレ」

 絞り出すような声で名前を呼ばれ、ヴィオレは気だるげに顔をあげた。

 開きっぱなしにしていた鉄の扉から、ちょうど御堂が屋上へ出てくるところだった。運動性など欠片も考慮されていない室内履きで、ここまで走ってきたらしい。彼が肩で息をしているのは初めて見る。

「来ないで」

 自分でも驚くくらいに冷たい声が出た。

 びくりと足を止めた御堂は、なにを言おうか迷っているようだった。疑問が最初に出てこないということは、おそらくレゾンから全て聞いたのだろう。ヴィオレは適当に推測したあと、約束は守れないなと頭の片隅で思った。

 みんなが浅間に戻ってきたら、御堂の研究室に行く。ただそれだけのことも、今のヴィオレにはひどく難しい。

「なんで会いにきたの?」

 不快感は隠さなかった。

 今はレゾンの声を聞きたくないし、御堂の顔も見たくない。そんなことは二人とも分かっているはずだった。

「ペストが、出たからだ」

「そう」

「浅間の中に」

「……へぇ」

 そんなこともあるんだ、と無責任に続けてみせると、御堂は驚いた顔をした。

「わざわざ地下を掘り進んでくるなんて、物好きなペストもいるんだね」

「そんなことを言ってる場合じゃ──」

「なんで?」

 はぐらかすつもりはない。

 ヴィオレからすれば、これはまっとうな疑問だった。