第三章

 浅間内壁に設置された定点カメラは、壁の内側をぐるりと巡る森林の一部を映していた。可動域の限界までレンズを壁に向けてはいるものの、地下とは思えない数の木々が画面を占める。

 その中で、ほんの少しだけ見える壁面に、ぽっかり穴が開いている。角度のせいでその内部は見えないが、穴を開けた張本人はすでに半身をこちら側へ晒していた。

 巨大なネズミ──ペストだ。

 司令室内部がにわかに騒がしくなるのを、レゾンは萩原のマイク越しに感じた。当然のことだ。ペストの侵入などという危機は、浅間の歴史上存在しない。

 他のカメラからの情報を総動員して、レゾンは推測を述べる。

「おそらくあのペストは土を完全に外へかき出してはいない。背中を襲われるのを嫌ったんだろう。外と完全に繋がっているわけではないようだ」

 かといって、完全に塞がっているわけではない。とは言わず、レゾンは各種計器が叩きだす数字を注視する。

 浅間の中と外とでは、あらゆる意味で環境が違いすぎる。放射能に汚染される前の環境を地下に強引に残したのが浅間であれば、外は放射能に汚染されたまま何百年ものときが経過した世界だ。

 なにもかもが違う。ペストがそうであるように、生き残った動物も、植物も、あるいは細菌類だって、進化や発達を遂げているだろう。

 仮にそういったものがたったひとつでも紛れ込んできたとして、浅間という無菌室にいた人類が耐えられる保証はどこにもない。

「侵入地点は?」

「中層西部だ。地図を出す」

 浅間は、三層に分かれた円柱形の構造をしている。