第三章

 同時に、ヒトがいなければレゾンの維持も不可能で、存在意義も消失する。

 レゾンは、自分のためにも人類を存続させるべきだった。だから浅間の設計で「重要機関は上層にある」などという凝り固まった文化など取り入れなかったし、「ヒトの遺伝子組み換えは行うべきではない」なんていう倫理も切り捨ててハイジアを設計した。

 アダムとイヴさえ残れば、他はどうでもいい。

 個など一切尊重せず、種としてのヒトを守り抜く。

 世界が放射能で汚染されて、人類が存亡の危機に立たされたとき、確かにレゾンはそう誓った。浅間のあちこちにカメラを設置したのだって、あらゆる異変を迅速に察知するためだ。

 浅間を人同士の戦いで滅ぼすわけにはいかない。そう考えたレゾンはヒトの観察をそれまで以上に熱心に行い、手に入る限りの知識を蓄積し続けた。

 ヒトを知りすぎたのだ。

 ヒトを知りすぎた故に、レゾンはその存在意義を失った。

 ヒトにはできない決断を行うのが、人工知能の役割だ。種の存亡が関わっているならば、なおさら決断は迅速に、正確に行う必要がある。私情や罪悪感、歴史やならわしに縛られる人間をフォローするのが、人工知能だ。

 レゾンは私情を知ってしまった。

 ヴィオレの小さな幸せを願ったのだ。

 私情を挟む人工知能に、存在意義などない。

 レゾンの電脳のあちらこちらで、赤い警告色と共にエラーが鳴る。自らの存在を否定したのだから、当然のことだ。

 それでも、レゾンはヴィオレから目を離さなかった。