終章 始まりは終わりと共に

 そんな存在の出現が世界に一体どんな影響を及ぼすのか──イアンと言えどその全容は掴みきれない。し、そんな存在が三柱集まる事で何かを引き起こすともなれば、自然、警戒してしまう。それが例え幼女の姿だったとしても。

「少し、聞いてもいいか?」

「クルスティアン・ポポリオーネ。愛称はティアだよ!」

「そうかポポリオーネ。だがそれは聞いていない」

 イアンは椅子の背もたれに身体を預けて幼女に問う。

「お前、今回の事はどれくらい覚えている?」

「…………ボクね」

「ああ」

「実は……あまり覚えてないんだぁ」

 首を傾げながら、幼女は言う。

「いつもじゃないかんね? たまに記憶が抜けてるというか」

「……ああ」

「体のちょーしがわるい時とか。でもね、なんかもやもや覚えてはいるの。聞こえた事とか匂いとか」

「……それは、正確なのか?」

 そうイアンが問うと、幼女は胸を押さえて首を横に振った。

「ううん。わからない。だけど、あなたの匂いは覚えてる──気がする。あたまじゃなくって、ここが」

「…………そうか」

「まちがえてたらゴメンなさい。でも、ありがとう」

 その「ありがとう」に、顔いっぱいに湛える笑みに、この幼女は一体どれだけ大きな感謝の意味を込めたのだろう。

 聞いたイアンの胸が溢れそうになった。

 だけれど、

「その言葉を向けるべき相手は、私じゃあない」

 石造りの四人掛け椅子から少し離れたところにある二階建て石造建築物の軒先から、声が聞こえてくる。

「ちーす。翼マークの引越し屋でーす。ご指名ありがとうございまーす」

 声のする方に目を向けてみれば、金髪、マフラー、短パン、タイツにブーツという風貌の男が身の丈程もある箱を片手で持ちつつ、家屋の扉をノックしているのがイアンの目に飛び込んで来た。