第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う

 ──ウ、ごけ……。

 こうして地面に突っ伏している間にも、カソックの男は攻撃を仕掛けてくるかもしれない。

 ──うご、け。

 例え腕が吹き飛ぼうとも、脚をもがれようとも、ここで立ち向かわなければ後はない。

 体が動かないから何だ。視界が歪むから、それが倒れていい理由になるのか。

 助けると約束した。

 死にゆく運命だと断言されようとも。

 今となっては数時間前の事でさえも消せない過去の事象。だが助けると断言した。ならば、消せないのならばせめて変えてみせよう。

 だから、もしも世界に運命があるとすればそれはただの思い込みだ。過去を消し去る力なんて人は持ちえない。ただ、目の前で死に絶えそうな誰かが、助けると約束した幼女が居た時、同じ科白が吐けるのか。

 刮目しろ。呼吸を止めるな。鼓動を、再開しろ。

 ──ぉ、おおオオオオオオオオオオ!!

 ふらつく足を制御できず、平衡感覚も掴めず、それでもリッキーは立ち上がる。

 身体中が軋んだ。軋んで軋んで。でも、諦めることができなくて。

 たとええカソックの男に運命の女神の力を振りかざされようとも。

「それでも、」

「……立つか」

「それでも、テメエなんぞに殺られる訳にはいかねえんだよ……!!」

 雨が再び勢いを増す中、リッキーの咆哮が木霊した。

 対峙するカソックの男は冷徹に冷酷に笑み、バサリと翼を羽ばたかせる。

「では。君の心臓を捧げて女神の力を完成させるとしよう」

 褐色の羽根が──辺り一帯にばら撒かれた。