第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う

 精霊魔術を頻発して使用して来ないところを見るに、裏通りに残ったイアンがヘルに骸骨たちを行使させ、カソックの男が精霊魔術自体を自由に使えないように動いているであろうことは分かる。

 カソックの男が骸骨を使えば逆に裏通りのヘルが骸骨を使えない。

 これが、この二人の精霊契約の在り方である。しかしそれはあくまで精霊魔術を行使する時のルールであって、威力のさじ加減はまた別の話だ。

 確かに精霊契約には人間と精霊が互いの都合を守るための魔法陣があって、互いに互いを陥れる事はできないというルールがある。しかしながら、カソックの男が標的としているのはリッキーだ。骸骨が有する火力が自動的に調整されることは有り得ない。

 今まで自由自在に骸骨を行使し、時に収束させて爆発的な破壊力を引き出していたと言うのに、突然その扱いがままならなくなるという事があるのだろうか。

 短期的に会得した技術等であれば時間が経つにつれ感覚も失われていくが、それだけの時間の流動はなかった。

「新たなものを取り入れると、どうにも動きが重い」

 そのカソックの男の言葉を聞いて、

 ──新たなもの……?

 リッキーの喉が、干上がった。

 ──……ま、さか……バカ精霊の力を……?

 ティアの翼の消失とカソックの男の力の乱れ。

「ふむ……主体を切り替えた方が効率は良さそうだ」

 呆けるリッキーを余所に、カソックの男は両手を掲げて空を仰ぐ。それに呼応するように荒野の大地に描かれていた魔法陣が、動き出す。

 魔法陣が回転しながらその大きさを縮め、拳大のサイズにまでなると陣の中心に居るカソックの男に向かって地を這いつくばるように移動を開始する。そしてカソックの男に到達した魔法陣は身体を伝って背中まで這い上がり、首の付け根辺りに達すると同時にそこから離れて宙に浮き、回転しながら大きさを膨張させた。