第三章 終末にはまだ早いと精霊魔術師は云う

 回避はままならない。防御は意味が無い。リッキーの頭が瞬きする程度の時間の中で次にすべき行動を叩き出して並べる。

 歯を食いしばれ、意識を離すな、耐えろ。

 爆発。

 骸骨の腕がリッキーの顔面を捉えた。

 触れた瞬間に巻き起こった小規模な爆発がリッキーを吹き飛ばす。そのままリッキーは二転三転し、荒野の大地にひれ伏した。

 驚くことに絶命はしていない。それどころか辛うじて意識すらある。

 腕が直撃した額の辺りからは出血があるが、頭を丸ごと千切られなかったのは幸運以外の何物でもない。ただし、衝撃で三半規管が少々やられている。薄く開いた右目に映る地面がぐにゃりと歪んで見えた。

 それでも、悠長に休んでいる時間など無い。

 ──立て……!

 次の骸骨がいつ殺到してくるか分からない。たとえ裏通りにいる闇医者が骸骨の根源たる精霊に精霊魔術の使用を促してカソックの男の攻撃手段を制限したとしても、完全に封殺することなど現状できないのだから。

 リッキーは鈍重ながらも動いてくれる首をぎちりぎちりと動かして前方へ顔を向ける。

 視界に入るは、仁王立ちして不敵に笑うカソックの男とうつ伏せに横たわるティア。そこでリッキーは気付いた。

 ティアの背中に翼がない。

 猛禽類を思わせる勇猛さと神々しさを併せ持った大翼がティアの背中から影も形もなくなっていた。

「……そいつに、何を、しやがった」

 息も絶え絶えに声を絞り出すとカソックの男が驚いたように目を見開く。

「おや、まだ意識があるのか」

 カソックの男は、威力を加減したつもりはなかったのだが、と呟いて自分の右手を見る。

「……どうやらまだ馴染んでいないらしい」

 何か引っ掛かる言葉だった。