〇〇三

 それらを砕いて水と混ぜ合わせたモルタルは、乾燥させれば強固な物質になるものの、雨や雪にさらされるとやはり少しずつ風化してしまう。

 バフォメールは、その風化した部分から染み出すミネラルを求めて寄って来るのだそうだ。

「奴らの舌はヤスリ状になってるから、舐めた時に壁を削っちまうってわけ」

 酷い時は、壁にかじりついて破片を咀嚼するらしい。

 その話を聞いたのはロニも初めてで、少し目を剥いていた。

 ロニの顔を見てシルベスタは言う。

「なんだお前、知らなかったのか?」

「は? 何か問題でも?」

「言うにこと欠いて開き直りか?」

「こちとら新部署設立から半年も経ってないんでねぇ、あれこれ知ってるわけじゃないんですわ」

 ロニは、「あと」と続ける。

「壁の作業の監督任務を引き受けたのも三カ月前が初めてですから」

 それからロニは、シチメンドウができる以前は総務部で監督任務を持ち回っていたことも述べる。

「て言うか、山羊のことなんてあなたも知らないっすよねぇ上官殿」

「問題でもあるか?」

「あれー言うにこと欠いて開き直りですかぁ? やだーもー」

「こちとら新参者だからな」

 そんな感じでやり取りを繰り広げていると、途中で会話に入っていけなくなった現場監督が小声で「本当に初対面かよ。仲良いな」とぼやいていたが冗談ではない。

 言葉使いから挙動一つ取っても軍人らしさの欠片さえ見えないロニに、シルベスタは呆れてため息をつくか皮肉を言うかのどちらかしかできなかった。

 その後、休憩時間は程なくして終了。

 会話もそこそこに作業は進み、終了する頃には西の空が赤に染まっていた。