〇〇三

 口に広がる独特な味のしまりと重さ。

「なるほど、硬水ですな」

 ロニの言葉に現場監督は頷く。

「ロニちゃんもこれ飲むのは初めてだったな」

「うい。前は監督の奥さんの差し入れでしたからねぇ」

 正直なところ、水の味の違いなんて分からないシルベスタは、二人の会話を聞いて首を傾げる。

 現場監督が自分で水を汲みに行っているわけでもなしに。

 仮に水道水を入れられていたとしても真偽は定かではないし、そもそも屋内での飲食と屋外での飲食とでは気分的な違いが生じる。

 シルベスタからすれば、二人の会話は半可通ぶった映画評論家のそれに近かった。

 というか、水の話は置いておくとして気になる事が一つ。

 先のロニの言動と、ロニと現場監督が初対面ではないという点から、壁塗りは何度か行われているであろうことは容易に想像できる。

 問題は、そのたびにシチメンドウは借り出されるのか、ということだ。

 そのことを現場監督に尋ねると、壁塗りは三カ月に一度のペースで行われ、軍部から必ず一人は監視役が付くという回答が返ってきてシルベスタは思わず目を伏せた。

「なぜ一年に四回のペースで壁塗りを……?」

 シルベスタが続けて質問すると、現場監督は近くの森を指差しながら答える。

「この辺は山羊が住んでてよ」

「山羊?」

「ああ。バフォメールっつう牛みてえな鳴き声のやつで、壁を舐めに来るのさ」

 街を囲う壁には、ミネラルを多く含んだ土や石が使われている。