三、篝火
閉ざされた囚人の塔は脆く。
まるで決断を待ちわびていたかのように。
咎める者もいなければ、立ち塞ぐ者もおらず。
まるで誘(いざな)うかのように。
崖の上の囚人塔。
眼下に広がる野原は雄大で、悠久で。
しかし風は荒々しく、また、始まりを予期しているかのようだった。
「妹を救えるんだったら、死という代償すら温い」
銀の装甲。ロビン・ウォルタナは囚われた妹を助けるため、心中で滾る『怒り』の焔を更に炎上させる。
「最期への一歩。導き手は己れ一人で十分だ」
黒の外套。大剣携えるアルヴィンス・ガザは、今は亡き王女から譲り受けし導き手としての使命を、『鋼の誓い』を、再開する。
心拍数が上昇。
身体の奥底から何かが湧き上がるような感覚が。腹に留まっていたそれは更に膨れ上がり、弾けるように全身に広がった。
目下、崖の下に広がる野原に、鎧を纏った女たちの姿があった。野原を食い尽くす銀の軍勢。陽光を反射する彼女たちの眼光は鋭い。
対するロビンとアルヴィンスの戦力は──
かちゃり、と不意に金属音が小さく鳴る。
ロビンはちらりと後ろを確認し、すぐに前に向き直って言う。
「仲間なんて、いたのか?」
アルヴィンスは口角を吊り上げて応えた。
「百余年。大人しく沈黙していた訳ではないのでな」
二人の背後には、同じくここヴァルハラに捕らえられていた者たちの姿が。
雁首を揃えた男たちの数は百を超えている。それでも戦乙女たちの数に比べれば絶望的に少ないのだが、ロビンは心強さを覚えた。