二、アルヴィンス・ガザの導き
しかしそれゆえに王女が築き上げてきた輪の中にいることが新鮮だった。言い知れない温かさを感じた。安堵感があった。王女の家臣が傷つけられれば怒りが込み上げてきたし、鍛練中に街の娘たちが差し入れてくれる菓子がおいしいとも感じた。
もしも己れに故郷があるとすれば、それはきっと──
そういった感情を一番強く感じたのは、きっと、王女が死したあの時以外に考えられない。
垂れ込めた黒雲から雷光が降り注ぐ嵐の夜だった。
雷鳴と共に、突然、鎧纏いの女が現れた。
女は己れの命を狙ってやって来た。「アルヴィンスと言う名の男を出せ」と指名までしてきたから間違いない。
そうであったのに。
己れが出ていけばそれで事は済むはずであったのに。
騎士団は己れを守ろうと鎧纏いの女に立ち向かった。そして王女までもが壁となり、女と対峙したのだ。
しかし鎧纏いの女の強さたるや、まさに鬼神が如し。
強靭な戦士たちである騎士団が女の一撃で宙を舞い、叩きつけられ、女の眷属である有翼の獅子に屠られていった。
それでも騎士団は、王女は、立ち向かう事を止めない。
逃げろと叫んだ。大人しく己れを差し出せと喚いた。流れ者を庇う理由などこの国にはないと絶叫した。
それでも王女は己れに言ったのだ。──お前もすでに、私が守るべき民なのだ、と。
虚しくも、勝てる術などなかったというのに。
死の間際、王女は己れに黄土色の欠片を託した。
元は石版か何かだったのだろう。古の文字が刻まれており、終わりの文しか読めないため、全容を解明することはできない。