四、漆原鋼介
接続を確立できません。マニュアルドライブで操作を開始しますか?
機械音声は、僕にそう質問してきました。
僕は頷いてモニタに表示されたYESを押しました。
そのすぐあとだったと思います。
いつもは優しい祖母が、鬼の形相でこちらに向かってきているではありませんか。ウェーブのかかった髪も助けて、その形相は鬼婆のようでした。
怒られました。
今世紀最大の怒りといっても過言ではありません。いや、過言かもしれません。
でも僕は、あんなに怒った祖母を未だかつて見たことがなかったのです。それと同時に、祖母の言葉が気になりました。──お前には、適性はあるが今はその時ではない、と。
祖母がどんな意味で言ったのか。僕にはわかりません。
ただ、ロボットの胸部に空いた、人為的な穴の存在が、関係しているようにも思えました。
祖母は、僕を叱る時は右手でげんこつをします。
左腕はありません。
祖母の左腕は、ロボットの起動時になくなりました。
強制ダウン、と。祖母はたしかそのようなことを言っていました。詳細はわかりませんが、ロボットの活動を無理やり休止させるためのコマンドです。無理やり、というくらいですから、普通の方法ではありません。代償に、祖母は腕を失いました。
僕のせいです。
僕のせいで祖母は、利き腕をなくしました。
オアシスキャンプの要であるエンジニアの命ともいえる腕を、失ったのです。
服のボタンが掛けづらい──僕のせいです。
箸がうまく使えない──僕のせいです。
好きな仕事が、できない。
────僕の、せいです。