二 天使・告げる
「人間風に言えば、そうなるだろうな」
悪意もあらわに噛みつくシルヴィに、天使はにべもなく答える。
その態度はシルヴィの視線に殺意にも似た激情を含ませたが、天使は臆することもない。
「自らより強い存在に対して、挑む理由がどこにある。自死するならば方法を選んだ方がいい」
「分かったような口を……!」
低く、シルヴィが吠える。
元より、シルヴィに死ぬ気などない。ロランが〈悪堕ち〉と呼ばれる存在になってしまったことを理解した上で、〈悪堕ち〉がシルヴィをはじめとする〈悪使い〉よりも強い性質を持っていることも知覚した上で、ロランの行く先に向かっている。
〈悪使い〉であったロランは、自らの体に封じていた悪徳を抑えきれなくなって〈悪堕ち〉となった。〈悪使い〉にとっての死とは、〈悪〉などと戦って死ぬか、信仰心のある人間に捕えられての処刑か、〈悪堕ち〉に成り果てるかのいずれかだ。それほど一般的な現象であり、神の摂理に逆らって力を手に入れている以上、背負うべきリスクのひとつである。
だから、シルヴィはロランを憐れんではいない。〈悪堕ち〉とは、誰でもかかる可能性のある不治の病のようなものだ。
では、どうしてシルヴィはロランという〈悪堕ち〉に固執するのか。
「──お前は今日殺す〈悪堕ち〉を二人にしたいのか?」
シルヴィの言葉に、天使は初めて表情を変えた。
怪訝そうに眉を寄せる。鏡像のように浮かべた表情が示すのは、疑問。
「何を言っている」
「〈悪使い〉には強い意志が必要とされる。神の摂理に逆らえるだけの、強力な意思だ」