一 死・満ちる

 生き残った人間はいないものか、と周囲を見回しても、見える範囲は誰のものかも分からない死体だらけだ。村の住民の顔と名前は、シルヴィの中で全て一致しているにも関わらず。

 ここにあるのは、破壊と蹂躙のあとだけだった。

 辛うじて生き延びているのは、シルヴィひとり。

 そして──もうひとつ。

 背にコウモリの翼を生やした人影が、シルヴィの前方にたたずんでいた。

 影がそのまま立ちあがったかのような、光すら吸収する黒い体。対して、翼だけがぬらぬらと周囲の赤い光を反射している。

 シルヴィは、人影のかつての姿を記憶している。短く刈り込まれた暗褐色の髪と、日に焼けた肌を記憶している。背負った業に似合わない、人懐っこい笑みを記憶している。指導の厳しさと、大きな掌の優しさを記憶している。

「ロ、ラン……」

 その名を、記憶している。

 しかし、振り返った人影の瞳に、かつての色は残っていなかった。炎と夕日の逆光を背負ってなお赤く輝く瞳に、人間らしさなど微塵もない。人格を形成する理性と感情が抜け落ちた、獣のような瞳。

「ロラン……!」

 シルヴィは拳を握りしめて、もう一度名を呼ぶ。

 『彼』が、その声に応えることはない。その声を知覚することはあっても、内容を理解することはない。少女の声の弱さも切実さも、感じることはない。

 理解してなお、シルヴィはヒトであったものの名を呼んだ。

 今度こそ、明確に、獣の瞳がシルヴィを見とめる。ひとりの少女としてではなく、ひとつの破壊対象として。

 赤い瞳から放たれる狂気的な色に、シルヴィが思わず身をひく。