一 死・満ちる
小さな村は、赤と黒に彩られていた。
つい数分前まで少ないながらも人が行き来し、言葉が飛び交う場所だった道に、かつての面影は残っていない。土を踏み固めただけの路上には血肉が散り、左右に並んでいた家屋はごうごうと燃え盛っている。炎に舐められた木材は炭化し、地面に落ちた影と共に濃い黒の勢力を広げていた。
日が沈みかけている今、夕日と夜がせめぎあう空すらも赤と黒の色彩が支配しているようだ。
鮮烈で残酷な二色は、ひとり立ち尽くす少女──シルヴィの目を奪って離さない。
声も出せず、身動きすらできないまま、シルヴィはただ呆然と赤と黒を見つめ続ける。すでに記憶に刻み込まれているであろう風景を、自分の大切なものが壊れていく様を、ひたすらに視覚し続ける。
時折、思い出したように呼吸する。息苦しいのは、決して周囲で火が燃えているせいだけではない。十代も後半、すでに身体的には成熟しているとはいえ、この状況を受け入れるだけの精神をシルヴィは持ち合わせていなかった。
中身をすべて外に出してしまおうとする消化器官をどうにか抑え込み、シルヴィは小さく一歩を踏み出した。
そこらじゅうに、村の残骸が散らばっている。村を構成していた建物の建材と、村を作っていた人々の欠片。もはや嗅覚が麻痺しているのか、一帯に満ちているであろう鉄くさい血の匂いや木材と人体の燃える匂いを、シルヴィは知覚できない。
シルヴィは道だった場所を進む。高く結いあげられた赤毛は、炎の熱でかきまわされる風にも揺れず、血で濡れて背中に張りついている。