第三章
体の節々が痛むのを感じながら、私は目を覚ました。
眠った、という感覚はほとんどなかった。休んだ、とも言えない。硬い床に寝転んだ私の体は、慣れない姿勢のせいでむしろ疲労を蓄積させているような気がした。
特に、体の重みで押しつぶされた肋骨が、息苦しさと共に鈍い痛みを訴えていた。
私は両腕に力を入れ、うつぶせに寝ていた体を持ちあげた。
血や吐瀉物、埃で汚れた衣服が、ぱりぱりと音をたてて床から剥がれた。
気だるさはあった。それでも体が軽く感じられるのは、気を失う前まで毒の苦痛に苛まれていたからだろうか。
その苦痛を取り除いた死者の書は、ページを開いたまま床に置かれていた。
上体を起こして床に座り込んだ私は、特に意識することもなく死者の書へ手をのばした。
私がページを破いた形跡は残っているものの、死者の書は先ほどよりも薄くなっているような気がした。
人の死の定めを書いた死者の書が薄くなる。
死者の書に書かれていた人間が、私のように死の定めから逃れた、と考えるのは楽観的すぎるというものだ。そもそも、死者の書の厚さが変わるほど人間が死の定めから逃れられるのならば、世界の生死のバランスはもっとめちゃくちゃになっているだろう。
死者の書が薄くなったのは、ページに書かれていた人間──おそらくはクリッフェントの国民たち──が、正しく死神に導かれたからだ。
何枚のページがなくなったのか、私にはもう分からない。
今更のように恐ろしさが湧いてきて、私は死者の書を閉じて胸に抱いた。私の名前が書かれたページが、石製の床に落ちているのが目に入った。
破いたページは本に戻らない。
死んだ人間が生き返らないのと同様に。
私は結局、終始流れに身を任せたままだったのかもしれない。周りに流されるままに生きて、だからこそ秀でたところもできないままだったのではないだろうか。そして、言われるがままに生贄となって、出会った死神に選択肢を与えられ……毒の苦しみに負けて、途方もなく大きな選択をしてしまった。
だから、国民たちが死んでしまっただろうことを悲しむ理由も、その選択を恐れる理由も、王族としてのそれではないのだろう。
秀でたところのない王女だった私が、ただの少女になってしまった。