第一章

 役に立たず、貴重な食糧だけ消費する子供の命をアッシュに捧げれば、国民の命が救えるのなら。それほど安いものはないだろう。

 理解はしているのだ。

 私がここから出る手段のないことを。

 誰かが私を助けてくれる未来も存在しないことを。

 知識では、理解したつもりになっているのだ。

 ただ、これまで王女として扱われ──いつも誰かに囲まれて過ごしていた日々が、突然ひとりぼっちで終わってしまうことが受け入れられないだけで、しかしただ王女として誰かに囲まれていたのも本質的には孤独と変わりはなくて、じわじわと心が知識と理解に追いついてゆく感覚がひどく寒くて息苦しいだけで。

 冷たい石の上に座り込んで、少しも動いていないのに呼吸だけが乱れた。

 涙が出ないのは、泣くことすら一人でできないからなのだろうか。

 突きつけられた選択肢は、ただ私の視界に存在していた。

 静かに。

 残酷に。

 あるいは、優しく。

 金属製の杯は、当然ながらぴくりとも動かず、私の消極的な選択を待っていた。

 悲しみの波が引いてから、ようやく私は杯に手を伸ばした。

 癇癪を起こして杯を投げなくてよかった、とだけ思った。飢えと毒のどちらが辛く苦しいものかは分からないけれど、少なくとも毒を飲んだ方が早く死ぬことができるはずだった。

 指先から伝わる温度は、ひたすらに冷たい。

 この場にあって冷たくないものなど私の体くらいのものだけれど、それすらもこれから温度を失うのだ。

 杯を傾けるのに、特別な覚悟は必要なかった。

 諦めだけが、私の体を突き動かしていた。