第三章
偶然が重なった結果の復縁なのか、それとも約束された必然の復縁なのか、判断をつけられるのは全知全能の神くらいなものだ。
けれども、「知らない」ことは「諦める」理由にはなりえない。
自分が堕天使で相手が人間だとしても、この恋を諦めると言わなかったのは、他でもない梶宮ではないか。
そしてなにより、名前も知らない彼女が復縁に乗り気でないのなら。
諦める理由も、ためらう義理もない。
もし強い縁を持った二人だったとしても、繋ぎなおすたびに切ってやろう。
「復縁フラグは、へし折らせてもらおーか」
呪詛ならぬ声が、キューピットとは正反対の力で二人の縁をほどく。
堕天使としてのチカラの行使。けれど変化はいつもより緩やかだった。
男を振り切る決意を、女に固めさせるだけの、背中を押すようなチカラだった。
「……ごめんなさい」
円満な別れ。ではあるものの、さすがにそのまま同じ車両に乗っていられるような雰囲気ではない。
見計らったように駅へ入った電車が、扉を開いて人を吐き出していく。女は人波に乗って男から逃れ、梶宮は今度こそ見失わないようにその背を追った。
ホームの柱に手をついて立ち止まった女に合わせ、梶宮も足を止める。
陽に照らされたダークブラウンの髪が、水の流れのように輝いている。
彼女の方から吹く風に、柑橘系の淡い香りがまぎれている。
うまくいく保証はどこにもない。なにせ、梶宮が人間と話すのは、これが初めてのことだ。