第三章
結局、堕天使は堕天使なりに独りでいるべきなのだろう。
扉が開閉するたびに動く人々を見ながら、梶宮はぼんやりと思った。
天使など、元々は神に使えるだけの存在にすぎない。それが嫉妬などという感情を抱いて地に堕ちて、一体誰に認知され、あまつさえ好感を抱かれるだろうか?
気管を握り潰されたような息苦しさが、梶宮を苛んだ。
呪われてしまえと神に唾を吐きたい気分だった。天使を作ったのは──すなわち梶宮を作ったのは神なのかもしれないが、堕天というシステムを作ったのも同じ神ならば、呪う権利くらいは持ち合わせているはずだと自然に思えてしまっていた。
この孤独感が堕天への罰ならば、堕天の原因となった孤独感は一体なんだというのか。
「……堕ちたんだなぁ」
呟いた梶宮の声は、停車駅を告げるアナウンスにかき消された。
初めて地上からビル群を見上げたときよりも、神を呪ったいまの方がよほど堕天を強く感じるとは。梶宮自身、思ってもみなかった。
初めて間近に感じた人の息吹より、どこにいるかも分からない神への呪いの方が強いインパクトを持っているなんて。
──と、思ったところで、梶宮はふと聞き覚えのある声に気がついた。
誰かの名前を呼んでいる、けれどもその名に繋がる顔が思い浮かばない、不思議な男の声だった。
梶宮に堕天使以外の知り合いはいない。狭く浅い関係を築いているのだから、声と名前を聞いて顔が出てこないなどということはありえないはずなのだが。
「今更、なに?」