第3章
遠方には森と町、近場に見えるものは金属ばかり──かと思っていたのだが、足場の隅には登山に使われそうなナップザックと、丸められた寝袋が転がっている。まさか、ヴァージルはここで寝泊まりしていたのだろうか。
「あえて自分の痕跡を残しているんです。依頼主が疑われたら、商売あがったりなので」
自分が疑われることこそ避けるべきなのでは、と思うものの、僕は動機という点でグレッグ・ブリュー殺しの第一容疑者になりかねない立場だ。たしかに、僕に関わりのない証拠が出てくれるととても助かる。帽子も手袋も、僕の証拠を残さないための指示だったのだろう。
恩を仇で返す、という感覚はどうしても残ってしまうが。
「それでは、銃を」
ヴァージルが懐から銃を取り出し、グリップをこちらに向けて差し出してきた。
黄金色のアンティーク銃だ。ガラスケースに守られていないのが不思議なくらいの装飾は健在。改めて見ると、弾丸を込めるのも、引き金を引くのもためらわれるくらいの美しさだった。
恐る恐る、グリップを握る。ヴァージルから僕に手渡された銃は、ずしりと重い。
「あ、込める前に、弾丸をこちらに」
言われるまま、ヴァージルが持つ白布の上に実包を乗せる。
おや、と彼の口からこぼれた声は、その重さに対するものだろうか。布の中で実包を揉むように拭くヴァージルが、感想を述べる。
「いい重さです。うまくいきますよ」
言いながら実包の指紋を拭き取るヴァージルの表情は、どこまでも優しかった。