第3章

 追い詰められているのだろうか。何にでもすがりたい、という気持ちなら、確かにある。

 グレッグ・ブリューを殺す。一週間前、過去を思い出したあの時──ヴァージルの言葉を借りれば、弾に魂を込めたあの時、僕は確かに殺意を抱いた。激しい情動は収まることもなく、むしろ増大して僕の意識の片隅で存在感を放っている。

 けれど、その技量は僕にはない。ヴァージルの言う「魔法」にすがらなければ、この殺意を満たすことができない──

 とまで考えて、恐ろしくなった。

 僕は殺人鬼になってしまうのだろうか。

「はい?」

 振り返ったヴァージルが、きょとん、と気の抜けた表情をする。

 どうやら、声に出てしまったらしい。隠すつもりもないので、正直に言ってしまうことにした。

 話し終えると、ヴァージルの顔にはいつも通りの微笑が戻っていた。

「それは個人に対する殺意でしょう? いまここで私を殺したい、とかいう考えをお持ちでしたら、それはもう無差別殺人に繋がりかねませんが──あぁ、失礼。誰にも恨まれていないと断言するには難しい職をしているんでした」

 笑いながら言うヴァージルに、なんと返せばいいのか分からなくなったとき、ちょうど鉄塔の最上部に辿りついた。

 足元に気をつけて、というヴァージルの注意を聞きながら、少し開けた足場を踏む。腰までの高さの柵がついているものの、この高さではかなり心もとない。