第2章
テーブルの上には、ヴァージルの残した一つの実包と、一枚の紙切れが残っていた。
重い頭を振り、無理やりに視線を反らす。どんなことを言われても、どういう風に考えても、今は「復讐」という言葉を思い出したくなかった。
ヴァージルが去ってから、日が沈んで昇るだけの時間が過ぎている。夜更かしをしたつもりは全くないのだが、寝不足特有の体のだるさが残っていた。
眠りが浅かった。悪夢を見ては目を覚まし、もう眠りたくないと思いながら睡魔に襲われる。そんな一晩だった。
グレッグ・ブリュー。
あの男の夢だ。
目からは殺人鬼の薄ら笑いが。鼻からは血と硝煙の匂いが。右足からは激痛が。両手からは体温を奪われそうな金属の冷たさと、想像を上回る銃の重さと──どうしようもない震えが。
夢を見ているときの恐ろしさもさることながら、なによりもつらいのは、震える四肢を抑え込むようにしてベッドで丸くなって目が覚める、あのやりきれなさだ。
これはきっと、いつまでも続く。あんな出来事を忘れるなんて、僕には想像することすらできない。
殺人鬼が死んだところで、それは変わらないだろう。
ため息を吐きだす。復讐代行なんていう蜜に釣られるのがバカだったのだ。そんなことをしたって、なんの意味もない。僕の記憶は消えたりしないし、問題はなにも解決しない。
用事を済ませて、気分が落ち着いたら、ヴァージルに連絡を入れよう。
僕はもう二度と、あの男を自分から思い出したくない。
少し鮮やかすぎただろうか。
墓石の上に花を供えるとき、そうやって自問するのが癖になりつつあった。