第1章

 仕事がアウトロー(というか、アンダーグラウンド)なだけで、中身は一般人と変わりないのかもしれない。言葉や常識がある程度通じる相手であることを確認することができて、とりあえず一息つくことができた。

 ヴァージルに居間の椅子をすすめ、僕はキッチンに入る。来客用に常備している茶葉などは特にないが、外れも当たりもしない市販のティーバッグで済ませることにした。砂糖とミルクが必要か問うと、否定の返事。

 それ以上の配慮はいらない、とばかりにヴァージルは言葉を連ねる。

「しかし、驚きました。まさか本当に殺したい相手がいるとは」

 発言に、むしろこちらが肩すかしをくらう。自信満々、というべきか、当然のように営業してまわっている様子だったから、なにか根拠があって訪れてきたと思ったのに。

「いやぁ、そんな面倒なことはしてられませんよ。だいたい一〇軒まわらない内に誰かしらに通報されちゃうんで、いろんなところを点々と、しらみつぶしに」

 そっちの方が面倒なんじゃないか、とも思えるが。

 というか、通報されても構わず、いちいち訪問販売の真似事をしてまで復讐代行なんて稼業を営むのはなぜだろうか。ただの遊びと考えるには、少し被虐趣味すぎる。営業なんて好まない人の方が多いのに。

 他愛もない話をしている内に湧いた茶を入れ、僕は居間に戻る。

 色気も素っ気も変哲もないマグカップに入った安物の紅茶を、ヴァージルは文句ひとつ言わずにひとくち含んだ。嘘なのか本当なのかも分からない、「しみわたりますね」という感想。ここへ来るまでに何軒まわったのだろうか。