第1章
「復讐代行やってるものなんですが、ちょっとお時間よろしいでしょうか」
玄関先で一風変わった自己紹介をしてくれたのは、二十代に入ったばかりといったところの若い男だった。
カレンダーをめくってからにわかに涼しくなりはじめ、気持ちと服装を切り替えなければすぐに風邪をひいてしまう季節が到来したころのことだ。
気持ちが浮かれやすい春だとか、暑すぎて頭がおかしくなりそうな夏だとかならばまだ分かるが、秋の季節に不審者が増えるという話はあまり聞いたことがない。となれば、目の前の青年は年がら年じゅうこんな調子なのだろうか。
復讐代行。
物騒極まりない言葉を、浄水器やら怪しげな教材やらを売り込む訪問販売のようにさらりと言った青年から、底知れない気味の悪さを感じる。売り込んでくるもの以外は全て普通と言って差し支えないのに、唯一の異常が浮きあがって強く主張している。
「あんまり大きな声では宣伝できない稼業ではあるんですけれども、なにぶん開拓しはじめたばかりの分野でして。ニーズを探りながらやってる状態ですから、興味がなければすぐに仰ってください。ええ、たとえば」
呆気にとられた僕の前で、青年は笑顔を浮かべたまま言葉を続ける。
「殺したいほど憎い相手がいない、ということでありましたら、すぐに帰りますので」
自称・復讐代行の青年は、ヴァージルと名乗った。
普通の名前だ、と指摘すると、
「まさか復讐者(アヴェンジャー)と名乗るわけにもいかないでしょう。呼びにくいですし、外で呼べないですし」
存外、普通の理屈で返答された。