本論一・バカにつける薬はない。

 前日、二人はアイスを発端にして発生した喧嘩により、寮備え付けの家具はじめ、道路や家屋に焦げ跡を残す器物破損、他人の家の敷地内を横断する不法侵入など、いくつかの法令違反を犯している。

 魔法学園という特異かつ公に知られていないコミュニティ内の出来事であるため、科学的であることが求められる「表側」の刑事責任が問われることはない。そもそも、銃から発射された火球が家の外壁を焦がしたとか、異常な速度で自転車を走らせてホイールのゴムが地面に焼きついたとかいう現象を、科学主義的な思想の中でできあがった法律で裁けないというのが現状だ。魔法が世間一般に知られることになればまた別だが、世界に無用な混乱を招くよりは、自分の研究を優先させる性質を持っているのが魔法使いという人種の特徴だった。

 ともあれ、法令違反は法令違反である。

 科学的な常識が通用しない学園都市であっても、全くの無法地帯というわけではない。ヒトが集まって暮らしていく以上、どうしても規制は必要だし、いけないことをすれば相応の罰則を受けることになる。

 学校から学生に対して与えられるそれは、表でも裏でもさして変わりはない。効果のほどがあるかどうかは定かではないが、とにかく執行者側に手間がかからない──反省文作成である。

 かくして、カネミツとオキツグの前には真っ白なレポート用紙が並んでいるのであった。

「ふん。反省文程度、もはや今のオレには障壁にもならん。オレの右目はすでに、完成への最速ルートを見据えている……!」

「ンなこと言ってもカッコよくねぇからな」